海外の製薬会社は承認スピードが遅い日本での開発を敬遠する傾向に

医療器具の遅れも深刻な問題に

病気で医療機関を受診した際に処方される薬は、製薬企業が開発したからといって直ぐに使用できるわけではなく、その効果や副作用を確認する治験で各種データを蓄積したうえで、厚生労働省の管轄である医薬品医療機器総合機構の審査を受ける必要があります。

近年、抗がん剤や希少疾患を対象とした治療薬を中心に、海外では承認されている薬が日本では未承認のために使用できないという問題がマスコミ等で度々取り上げられるようになってきました。薬の承認格差、いわゆる「ドラッグ・ラグ」の問題です。

このドラッグ・ラグが起きる理由はいくつかありますが、例えば国内に患者数が極めて少ない希少疾病を対象とした薬の場合、承認されても開発に費やしたコストを回収できない可能性があるので、承認に向けての準備が進みにくいという側面があります。

ドラッグ・ラグが問題になっているのは希少疾患の薬だけではなく、日本人の死因で上位を占めるがんも同様です。米国がん学会(AACR)では、毎年約150種類を超える抗がん剤の治験情報が掲載されますが、その後日本での承認に向けて治験が行われる薬は50種類に満たないといわれています。

日本では欧米に比べて、薬の承認スピードが遅いうえ、治験ボランティアが集まりにくく(規制が厳しい、人体実験という負のイメージ等)、メディカルドクター(製薬企業で働く医師)も圧倒的に少ないという複数の要素が重なり、海外の製薬企業は日本での開発を敬遠してしまうのです。日本製薬工業会が発表した2007年のデータによると、他国で承認された薬が自国で使用できるまでの期間は、アメリカで1.2年となっているのに対し、日本は4.7年と先進国では最低の基準となっています。

どうして日本での承認にはこれほど時間がかかるのでしょうか? その理由は、新薬の承認・審査を行う機関の体制に大きな差があるためです。薬、医療機器の審査官は2010年の段階で、アメリカのFDA(食品医薬品局=日本の厚生労働省に該当する公的機関)の約2000人に対し、日本の医薬品医療機器総合機構は約400人しかいません。

特定の病気の患者さんで構成される患者団体の働きかけもあり、厚生労働省の検討会議では、国内の治験を省略して早期に承認すべき抗がん剤の種類を指定すべきとの意見がまとめられました。これを受け厚生労働省は、薬事承認を経ることなく、これらの薬を保険適用にすることを決定したのです。

ただし、今回のケースで認められたのは、既に別の病気の治療で承認されていた薬をほかの病気にも使用できるようにした「適応拡大」ばかり(例:小児の血栓症へのワーファリン、再発卵巣がんへのジェムザールなど)で、国内で全く承認されていない薬の適応は手付かずでした。

専門家からは、日本初の新薬開発を促進し、新薬の国内外における同時承認につながる国際共同治験に参加するなどの取り組みを行うべきだという意見が聞かれます。

承認格差は医薬品だけでなく、医療機器の分野でもにもあります(デバイス・ラグ)。テルモが開発した植え込み型補助人工心臓「エバハート」は、日本の企業が開発した製品ですが、承認はヨーロッパのほうが早く(2007年)、日本はそれに遅れること3年となっています。

そのほか、胸部大動脈瘤ステントグラフトは同じくヨーロッパから承認が遅れること10年(2008年)、脳梗塞を治療する「Merciリトリーバルシステム」は8年の遅れほか、なかには10年以上未承認の状態になっている器具も存在しています。