学会の権威を示すため一部では技量を伴わない医師も専門医に認定

必ずしもスーパードクターではない

医療従事者の方は別として、専門医という響きには、他の医師では治せない重病や難病の患者さんを治療する「スーパードクター」的なイメージを抱いている一般の方は少なくないようです。

実際に、各診療分野の学会で構成される「日本専門医制評価・認定機構」が一般の方を対象に「専門医とはどういう医師だと思うか?」と訊いたところ、上記の答えが最も多くなりました。

最近は医療現場で活躍する医師にスポットを当てたドキュメンタリー(「プロフェッショナル〜仕事の流儀」など)も多く、脳外科医の福島孝徳氏や上山博康氏は有名ですので、そういうイメージが強いのだと思います。

同機構では、専門医の定義として、5年以上の専門的な研修を経て、資格審査および試験に合格し、学会等に認定された医師としていますが、わかりやすく言えば、特定の分野におけ射て、幅広い知識と診断の技術を持ち、適切な治療を行う能力を持った医師ということになります。専門医の領域は、内科、外科などの「基本領域」と、そこからさらに掘り下げた消化器内科、心臓血管外科などの「サブ・スペシャリティー領域」に分けることができます。

これだけ見れば是非、専門医の認定を受けた医師の診察や手術を受けたいということになりますが、大きな事件が相次ぎ、その信用が失墜したことがありました。

すなわち、2002年、東京の慈恵医大青戸病院で、泌尿器専門医らが前立腺がんの患者さんに対して、指導医がいないまま、「この手術が出来れば俺達ってすごいよね」と半ばゲーム感覚で未経験の内視鏡手術を実施した結果、出血死させ、医師らが逮捕されるというショッキングな事件がありました。

さらに2004年には、東京医大で心臓血管外科専門医から弁膜症手術を受けた患者4人が死亡し、専門医の認定を行った学会は、この医師の専門医資格を一定期間停止することになったのです。これらの事故により、日本の専門医の質が厳しく問われることになりました。

専門医は学会が独自に認定を行いますが、その基準は千差万別で厳しい審査基準が設けられているところもあれば、簡単なところもあります。

日本消化器外科学会の消化器外科認定医を例に挙げると、筆記・口頭試験を受ける基準として、@日本外科学会の認定医または外科専門医であること、A5年以上の修練を行っていること(450例以上の診療経験が必要)、B消化器外科に関する研究発表を6件以上行っていること、などの資格が必要です。

第三者機関で認定を行い、将来的には診療科ごとに適正数を定める予定

試験を受ける際の審査料や認定料は学会の安定的な収入源になり、「数が力」という側面もある学会では、専門医を増やしたほうがメリットも多くなります。

このため、一部の学会では明らかに技量が伴っていない医師に認定を行ったり、権威付けの目的なのか、あまり関連がないと思われる複数の専門医資格を持つ医師が出てくるなど、制度の弊害が指摘されるようになってきました・

これらの批判を受け、資格取得に必要な執刀経験の基準を倍以上に引き上げた学会が出てくるなど、失墜した信頼を取り戻すための動きが活発化してきました。

そして、2010年、日本専門医制評価・認定機構は認定制度の抜本改革を行いました。学会が個別に認定を行ってきた専門医を、学識経験者などの外部委員を交えた第三者機関で認定することを決めたのです。専門医の育成を行う研修プログラムと研修施設もここで決定されます。

第三者期間は2015年には制度の運用を開始する方針となっており、将来に敵には、診療科ごとの適正な専門医の数も定める予定となっています。