重症例に対応できる地域小児科センターへの人材・設備の集約が求められます

急がれるPICUの整備

新生児と乳幼児の死亡率の低さは、世界でそれぞれ第1位と第3位を誇る日本ですが、こと1〜4歳の幼児死亡率になると事情は異なり、世界21位(人口10万にあたり24.5人)と急落します。

世界で21位というとまずまずの感じがしますが、先進7カ国のなかではワースト2(最下位はアメリカ)という不名誉なものです。何故幼児死亡率だけが高いのでしょうか?

子供の救急患者の多くは夜間に搬送されてくる割合が高く、その多くは軽症です。本来は緊急性がそれほど高くないにも関わらず、夜間の小児救急医療(時間外診療)を行う小児科に患者が次々やってくるため、そのハードな勤務環境でバーンアウトした小児科医が相次いで辞め、救急を担う小児科医が減り、最終的には小児科を廃止する医療機関も出てきているのです。

その結果、子供の救急患者が複数の医療機関に受け入れてもらえずに、救急車はそのまま立ち往生している間に、子供が死亡する―いわゆる「たらい回し」事件が全国で相次いで起きるようになったのです。

問題の背景として、従来の小児科医医療が、小規模な病院に支えられてきたという点が指摘されています。厚生労働省の研究では、亡くなった幼児(1〜4歳)の多くは、重症例を扱うことが少ない病院でなくなっているという結果が出ています。

その幼児の死因の1位は、誤飲や誤って風呂で溺れたりするなどの「不慮の事故」です。心肺停止に陥った子供には、速やかな蘇生措置を講じる必要がありますが、小規模な病院の小児科では、このような重症患者に対応できないのが現状なのです。

重症の子供を救うためには、小児科医と小児専門の看護師、そして最新の設備を集約化し、24時間365日対応できる態勢を整える必要があります。重症の赤ちゃんの治療を行う新生児集中治療室(NICU)の整備は進んでいますが、小児集中治療室(PICU)を備えた救命救急センターは全国で2割ほどしかありません。

小児科に限らず他の診療科にもいえることですが、日本は患者数に比べて病院の数が多いので、医師の配置がその分だけ薄くなり、治療の効率が上がらないという構造的な問題を抱えています。日本の外科医一人あたりの手術件数が欧米に比べて極端に少ないのも、このためです。

そこで日本小児科学会は、小児科医を集約化し治療の効率化を推進する目的として、小児科医10人以上による「地域小児科センター」を2次医療圏(人口30万人が目安)に整備する構想を掲げています。従来の病院は規模縮小を図り、人口100万〜300万人の広域に、PICUのある高度な病院を新設する考えです。

国も黙って見ている訳ではありません。2010年から、高度な救命医療が行える「小児救命救急センター」への補助事業を開始するとともに、医師や看護師が電話で親の相談に応じたり、症状を聞いて救急車を呼ぶか否かの助言を行ったりする「小児救急電話相談」を47都道府県の全てに設置しました。

厚生労働省の調査によると、病院勤務医に占める女性医師の割合では、小児科が33.1%と非常に高く(内科17.7%、外科5.5%)なっています。結婚・出産後も女性医師が安心して働けるように、院内保育所を整備したり、柔軟な勤務形態(時短勤務やワークシェアリング等)を取り入れるなど、医療機関の工夫も求められています。