終末期の患者さんの人工呼吸器を外した医師が相次いで書類送検(不起訴)

現場の医師は不安を拭いきれない

医療技術や機器の目覚しい進歩により、一昔前なら助からなかった病気の治療も可能となった、日本の平均寿命は世界の中でも大きく伸びています(女性:86.39歳、男性:79.64歳)。

これは大変喜ばしいことですが、一方で、治る見込みがない病気で苦しんでいる患者さんをどこまで延命すべきなのか、という線引きが難しい問題があることも事実です。

団塊世代が平均寿命に達する2030年には、年間死亡者数が現在の約1.5倍と推定されていますが、急速な高齢化に伴う「多死社会」となった日本の医療現場において、延命治療をめぐる議論は避けて通れません。

近年、マスコミで事件として取り上げられることが多くなったのが、がんなどで終末期を迎えたと見られる患者さんの人工呼吸器を医師が外すというケースです。いずれも患者さんの死亡との因果関係が不明なために不起訴となったものの、北海道立羽幌病院、和歌山県立以下大学病院紀北文院、射水市民病院などの医師が殺人容疑で書類されたことはニュースでも大きく報道されました。

延命治療の中止を行った医師に対して刑事責任を問うことは、大きな議論となっており、司法も慎重な姿勢を見せています。しかし、器官内チューブを外したうえで、筋弛緩剤を注射した川崎協働病院の医師は、余命判断の不十分さなどから有罪が確定しています。

中止によって医師が法的責任を問われない要件が明確になっていない以上、現場の不安は拭いきれません。そこで厚生労働省や日本救急医学会などは終末期医療の指針を作成していますが、人の命に線引きを行って処理することに違和感がある医師も少なくないため、具体的な要件を盛り込むには至らず、チームによる方針決定などの手続きに重点が置かれています。

延命治療中止の意思を示した事前指示書の必要性が高まる

近年俄かに注目されるようになったのが、本人の意思を事前に文書にして記録しておく事前指示書です。万一の際には、心臓蘇生を行うのか、人工呼吸器を使うのか、胃瘻(腹部に穴を開けてチューブを経由して栄養補給を行う)を希望するのか、など延命医療に関する考え方をノートなどに自由記述形式で書いておきます。もちろん積極的に延命措置を受けたいという希望でもかまいません。本人の意思が明確であれば、それを参考にして家族も医師も判断することができます。

日本尊厳死協会の「尊厳死の宣言書」は、末期の無意味な延命措置を拒否したり、植物状態が一定期間続けてば、生命維持装置を止める、最大限に苦痛を和らげるという内容で、リビング・ウィルと呼ばれています。

事前指示書はもっと広い概念で、医療に関する本人の意思を残すリビング・ウィルだけではなく、その意思を尊重する信頼できる代理人の名前を書くのが一般的です。

事前指示書あくまでもそれを書いた時点での本人の意思です。その時は治療法がなかった病気でも、本人が事故や病気で寝たきりになり意識がない状態になった時には、画期的な治療法が承認される一歩手前ということも考えられます。代理人を設定しておけば、医療の進歩などの状況を判断して、改めて選択をしてくれるという訳です。